みなさん、こんにちは。
大竹稽がお送りする「禅の美容室」。
桜が咲き、桜が舞い、桜が散る。日本の風情はほんとうに奥ゆかしいですよね。このコラムが、桜が舞い散るようにみなさんの心に沁みていくことを願っています。
さて、今回から登場するのは、小田原の東学寺の笠龍桂(かさりょうけい)和尚です。和尚の声は常にハツラツとして、和尚の話には愛のある体験が詰まっておりまして、しかもその法話はプロの噺家さん顔負け、大人気の布教師でいらっしゃいます。
精進料理って?
精進料理と聞いて、みなさんはどのような料理を想像されますか?
肉や魚が使われない。小鉢が多くて、手間がかかる。薄味。そして高級料亭(一席一万円超えそう)!などなど…、あるかと思います。
ですが、本来の「精進」料理とはそのような「形」や「料金」にこだわるものではありません。
ここから今回のコラムが始まりますよ。
殺生が禁じられていた僧侶たちは、「肉食」も禁止されていました。そのため、布施として渡された野菜・豆類・穀類を工夫しながら料理したんですね。こうして、みなさんが目にするような精進料理が出来上がりました。ただ、大切なのは「精進」が意味するところなのです。
「精進料理は、単に肉食禁止を意味するのではありません。精進料理の精進とは、怠らない気持ち、向上心を意味するのです。また、もったいないという気持ちを大切にします。私たち僧侶は、お布施でいただいたものを必ず使い切ります。たとえばけんちん汁ですが、もともと、落とした豆腐がもったいないというところから、つぶした豆腐を使った汁が出来上がったのです」
と笠和尚。
向上心が心のハリ
典座、という言葉を聞いた事はありますか?「てんぞ」と読みます。典座は一番大切な修行とされています。
さて、どんな修行でしょうか?
これが実は、食事係なんですね。なんてことはない、楽じゃないか! という感想、ごもっともです。しかし、典座という役を、修行僧たちは捩り鉢巻きで勤め上げるんです。なぜ、これが大切な修行になるのでしょう?
「修行僧にとって食事は楽しみの一つです。食事があるから修行にも励めます。そのような大切なものを任されるのですから、典座は必死です。しかも、お布施としていただいたものを使うしかない。たとえば、ナスしかなかったとしたらあなたはどのように料理しますか?わたしは「ナスご飯」に挑戦しましたが、大失敗でした。ですが、失敗も含めて向上心なのです。向上心は心のハリです。そして、心のハリが顔の表情に現れるのです」
みなさん、どうでしょう?
私がお会いする和尚たちは、同世代の男性より「若くはつらつ」としています。もちろん、肌のハリもあります。
その秘訣は?
「向上心」なのでしょうね。
肌のハリには向上心。失敗を恐れず、まずはなにかに挑戦してみましょうか。でも、「ナスご飯」はやめておきましょうね。ご飯が紫色になってしまって、とてもじゃないが美味しそうに見えないそうです……。
文・写真/大竹稽(思想家、教育家)