5年ほど前、古民家に住みたくなった僕は、働いていた東京を離れ、故郷大阪に戻った。そして祖父母が暮らしていた長屋と呼ばれる古民家に住むことにした。そこで暮らして見えてきたことをつづっていこうと思う。
秋、甘い香りを漂わせるファミリーツリー
玄関先に一本の大きな金木犀の木がある。母が幼少の頃にこの家に引っ越してきたときにはすでにあったというから優に60歳を超えているであろう。もしかしてこの家と同じ80歳ぐらいなのかもしれない。ファミリーツリーとでもいうべき木だ。
秋になるとこの金木犀が一斉に花を咲かせ、辺り一帯が陶酔するかのような甘く芳しい香りに包まれる。昔はこのむせかえるような甘い匂いがちょっと苦手だった。横に沈丁花の木があったのだが、子どものときは3月ごろに咲かせるその花の香りの方が爽やかですっきりとしていてずっと好きだった記憶がある。そんな金木犀ではあるが、いつの頃か、懐かしい気もするのかすごく好きになっていた。通りを歩いていて、ふと金木犀の香りが漂ってくると、少し歩みを止めて軽く目をつむってその香りに酔いしれる……。ノスタルジックでもあり、つかの間の幸せを運んでくる香りが金木犀にはあると思う。香りも味覚と同じように、年を重ねるごとに変わるのかもしれない。
一瞬の命をシロップにして楽しむ。
金木犀の花の寿命はほんの一瞬だ。3日から1週間も持てば長い方だろう。散り始めると地面があっという間にオレンジ色の小花で埋め尽くされる。そんな景色も美しいが、なるべくもっと花を楽しみたいと、この家に来てから金木犀の花のシロップを作り始めた。金木犀の花は、咲く一瞬前がいちばん香りがいいそうだ。
早朝、花が咲ききる前に梯子に上って、ボウルいっぱいの花を集める。それを丁寧に洗って軸を取ったら、後は白ワインとお砂糖でシロップを作り、そこに花をたっぷりと入れて少し煮詰めるだけ。口当たりをよくするために花の軸を取るのがちょっと面倒だが、それ以外は本当に簡単。近くに金木犀の木がある方はぜひやってみてとおすすめしたい。
作り置いたシロップは、炭酸水で割ってもいいし、お湯で割るとなおさら香りが立つ。紅茶に入れると、なんとも華やかな紅茶になる。バニラアイスにかけたりするとコンビニアイスがおしゃれなデザートにと大変身だ。白いアイスにオレンジ色の小花が散って本当に愛らしい。ヨーグルトやパンやパンケーキにかけるのもおすすめだ。なんとも幸せな朝食になる。
指先から漂うほのかな香りにうっとり。
そんな金木犀好きになった僕が、先日思わず手にとったハンドクリームがある。そのクリームからは、なんともいい甘く芳しいあの金木犀の香りがしていたのだ。金木犀の香りのする香水などはたまに見かけるが、どれもむせかえるような甘い香りが漂うものが多い。金木犀自体も近くで嗅ぐとむせかえるような強い香りがするが、僕の好きな香りは、道端でふと香ってくるほのかな甘さだ。この近くに金木犀が咲いているのかな?と探してみるようなそんなほんわりとした甘さだ。そんな香りがこのAUX PARADISのアロマティックハンドクリーム(75g ¥1,944、30g ¥1,080・ともに税込み/オゥパラディ)からした。
AUX PARADISは、日本の空気、日本人の肌、日本人の持つ繊細な香りの感性、日本における香りの在り方を強く意識して2008年に登場したブランドだ。ローズ、シトロン、サボンなどのベーシックな香りもすごくよかったが、期間・個数限定(8月下旬から12月頃まで)で発売されている「オスマンサス(金木犀)」に心奪われた。冬になると手がカサカサと荒れてくるので今年のハンドクリームは何にしようかなと探している矢先にこの出会い、なんともうれしかった。アルガンオイルも配合されており、保湿してくれているのに、さらったしたつけ心地なのは、生活をする上でもすごく便利だ。ナイトハンドクリームより、デイハンドクリームとして活躍しそうだ。ブランドが推奨している香りの重ね付けという提案も面白い。2種類のオードパルファムをシュッシュと重ねがけして、オリジナルの香りを作りだしたり、ハンドクリームは同じ香りのオードパルファムをかけるとすごく立体的な香りを楽しむことができる。
原稿に詰まると、手を止めて、机に肘をついて手を組み、そこに顔をのせて考えるポーズをよくするのだが、そんなときにふわっと香ってくる金木犀の香りがなんとも心地いい。男である僕が言うのもちょっと……って気もするが、手を潤わせてくれるだけでなく、ちょっとした香りの幸せも運んでくれるハンドクリームに出会えてよかったと思っている。
文・写真/楠井祐介