こんにちは、美容ジャーナリストの山崎多賀子です。自分が乳がんになって感じたこと、気づいたことで、みなさんのお役に少しでも立てれば…そんな思いでスタートした連載です。どうぞ!
男性のがん患者さんの悩みを知って。
がん患者さんのメイクセミナーを続けている話は何度もしていますが、ここ数年、男性がん患者さんからの相談が少しずつ増えています。そこで今回は、男性のがん患者の外見について書きます。
男性の外見の悩みといえば、ダントツで髪の薄毛ですね。夫も頭頂部が薄くなり始めてから何年も、いいお値段の育毛剤を使い続けています。60歳過ぎているし男だし、ハゲてもいいじゃない、と思って「なんでハゲるのが嫌なの?」と聞いてみたところ、一瞬ギョッとされ、「髪があった方がいいからに決まっているでしょ!!!」とプイッとされました。
私も薄毛予防に育毛剤を使っているので、感覚としては同じなのかな。
がん治療で外見が変わると「仕事の評価が下がる」恐怖を覚える。
生理的な男性の脱毛は少しも珍しくなく、社会的にも何ら問題はありません。では、抗がん剤で脱毛した場合はというと、ちょっと事情が違ってくるのです。
一般的に男性は女性ほど外見のことを気にしていないと思われていて、実際にそうだと思います。ただ、がん治療の副作用で外見が変わったとき、男性も悩みます。でも女性とは、少し悩みの質が違うようなのです。
抗がん剤で髪や眉もまつ毛も抜けて、顔色が悪くなると、女性は変わってしまった外見そのものを、まず最初に悲しいと思います。ところが男性の場合、とくに現役で仕事をしている人は外見が変わることで「(仕事上で)あてにできない人」とレッテルをはられる、とまず思う。つまり、社会的地位をおびやかされることに脅威を覚える傾向があるそうです。
実際に国立がん研究センターの「アピアランス(外見)支援センター」が抗がん剤を受けた男性へ調査をしたところ、「外見が男性の仕事における評価に影響を与えると思いますか?」という質問に対して、「かなりそう思う」「どちらかというとそう思う」を合わせると7割近くいて、「仕事中に外見を以前と同じように装うことは重要と思うか?」の質問には7割以上の人がそう思うと回答しています。
外見の変化に対処法も情報もなく孤立する男性たち。
さらに女性にとって化粧は日常のことでウィッグもさほど抵抗がありません。ところが多くの男性は、化粧をする習慣がなく、化粧やウィッグをかぶることに抵抗があります。女性は外見をカバーする対処法を沢山もっていますが、男性はありません。さらに、男性は外見をあまり気にしない、と世間に思われているので、悩みを打ち明けにくく、一人で悶々とし孤立してしまうことも。治療で黒ずんだ爪で名刺交換をするときに、「どうしたの?」と聞かれたり、思われたりするのが辛くなり営業職から内勤に替わったという方や、会社を辞めようかと思い詰める人もいました。
眉を描いて「やっと血が巡った」とつぶやいた男性。
以前、初老の男性から、脱毛した眉の描き方について相談を受けたことがあります。私が説明しながら眉を描くと、鏡を見て「やっと体の血液がめぐってきた気がする」とつぶやきました。そうかこの人は、血が巡っていないと感じるほど辛かったのか、と私の胸にズシンときました。男性が化粧をするかしないかは本人の自由。外見にそれほど悩んでいない人もたくさんいると思います。それでも男性への美容情報ももっと充実させる必要があると思っています。
男性の「元気に見える美容ポイント」は、まず、肌と唇を保湿してつやを出すこと。顔色の悪さは、顔全体にファンデーションを薄く塗ってもいいのですが抵抗がある方が多いので、目の周りのくすみ部分をカバー力の高いコンシーラーで隠すだけで元気な印象になります。さらに血色を感じさせるコーラル系のほお紅をうっすら、頬の正面の、笑ったときに筋肉が盛り上がる部分にうっすらなじませるのも手。
メンズ化粧品を活用しよう!
そして肝心なのがやっぱり眉。男性に眉を描くとき私は「エボニー」というデッサン用の鉛筆をなぎなた状にカットしたもので、皮膚に影をつける要領でシャッシャッと描くと自然です。でも今はドラッグストアに男性用の眉墨やコンシーラーが売られているので、これらを活用するといいと思います。
おすすめのブランドはシャンティのテックス–メックス。
薬用アクネコンシーラーN ¥950はナチュラルとダークの2色あるので、肌色に合わせて選んで。
アイブロウペンシル(眉墨)¥600はダークブラウンとナチュラルブラックの2色がありますが、完全脱毛しているなら日本男性はナチュラルブラックの方がより自然かもしれません。このほか顔全体の肌色をカバーするBBクリームもありますよ。
男性だって、外見で自信を無くすことはある。リカバーできる方法があることを知ってほしいと思います。
文・写真/山崎多賀子(美容ジャーナリスト)