こんにちは、美容ジャーナリストの山崎多賀子です。自分が乳がんになって感じたこと、気づいたことで、みなさんのお役に少しでも立てれば…そんな思いでスタートした連載です。どうぞ!
やはり「キレイは生きる力になる」…肝斑に悩むA子さんのはなし。
がん患者さんを対象に手探りでメイクセミナーを始めはや10年以上になるけれど、毎回、外見と気持ちの変化に新たな発見があります。そのたびに、「キレイは生きる力になる」という手ごたえを感じるのです。
昨年のこと、九州でがんの患者会を運営している友人から電話がありました。「抗がん剤でシミがこれ以上濃くなるのは耐えられないので、治療を止めたいと悩んでいる人(A子さんとします)が今来ているんだけれど、濃いシミって化粧品で隠せるのかな」という内容でした。
一般にはあまり知られていないかもしれませんが、外見に現れる抗がん剤の副作用には、脱毛以外も爪の変色やシミや肝斑(かんぱん)が濃く出ることがよく起こります。私も半年間の抗がん剤の後半に、マジックインキで塗ったような黒いシミや、黒ずんだ肝斑が両頬にでて、「これ、消えなかったらどうしよう」と、鏡を見ては暗い気持ちになったものです。治療が終わったらシミも肝斑も薄くなりましたが(治療前からあったシミはそのままでしたが)、今のA子さんの落ち込みはよくわかります。
だからといって治療を「中止したら」などと言うわけにはいきません。命がかかっていますから。そこで電話を替わってもらい、直接A子さんと話しました。やはり彼女の悩みは両頬に現れた濃い肝斑でした。肝斑もシミも、カバー力の高いコンシーラーで目立たなくすることができるのですが、実際の肝斑や肌の色を見ていないので、色選びやカバー法まではアドバイスできません。でもA子さんは今すぐに、具体的な対策法を知りたいはずです。
そこで私は、全国展開している資生堂ライフクオリティビューティセンターの電話番号を教えることにしました。あざや濃いシミ、傷痕、白斑などをカバーする専門のファンデーションを扱うメーカーはいくつかありますが、なかでも全国展開で専門の美容スタッフが個々の悩みに対応してくれるのは、やはり資生堂の強み。資生堂のパーフェクトカバーファンデーションはアイテムや色のバリエーションも豊富で、私もセミナーで重宝しています。
「肝斑はカバーできる」と知った瞬間、A子さんは前を向いた。
A子さんに、「この代表番号に電話して家から近いお店を紹介してもらって行ってみて。そこにはシミの隠し方を教えてくれるプロがいるからね」と説明して電話を切りました。そのすぐあとに、患者会の友人から「A子さん、治療を続けますって笑顔でみんなの前で言ったよ」とメールが来たのです。
これ、凄いことだと思いませんか? だって、A子さんはまだ、お店へ相談に行っていないのです。実際に悩みが解決したわけではない。それなのに電話一本分の時間で「治療を頑張る」、と気持ちが変わったのです。「人は先が見えないことが一番怖く、状況は変わらなくても先が見通せるだけで、一歩踏み出す勇気を得る」。このことは、私も自分の病気の知識を持ったことでがんの恐怖から一歩踏み出せた経験があったので知ってはいましたが、外見と化粧に関しても同じなのだとA子さんが教えてくれました。A子さんは、肝斑を目立たなくする対策法を相談ができる場所があることを知ったことで、勇気が出て一歩踏み出せたようです。
顔は社会と自分をつなぐ「窓口」なだけに悩みは深い。
シミくらいで治療を中断するなんて、と思う人もいるかもしれませんが、顔は社会との窓口。本人にとっては深刻な問題。きっと、「治療を止めたい」と言ったとしても周りに説得されてA子さんは治療を続けたと思います。ただ、嫌々治療を受けるのと、頑張ろうと思って治療を受けるのでは、全く違う生活になると思うのです。
実はその2か月後、九州でA子さんに会いました。「治療、無事に終わりました」と笑顔で報告してくれた彼女は、上手に肝斑を隠し、お店のスタッフにとても感謝していました。私は、その時々に適切な美容情報を「伝える」ことの重みを改めて感じ、そのためには自分も情報収集を怠ってはいけない、と思ったのでした。