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Inner Care】【COLUMN

2020.04.24

煙の形さえデザインする! 伝統世界に0から挑む香司の新たなるお線香(後編)

オリジナルの煙を生み出すため、香りのハンティング

山河本店 香煙研究所」の店の片隅には工房があり、その棚には何十もの香料の粉が置かれている。「フランキンセンス(乳香)」や「白檀」、「ホワイトセージ」など世界の9種の香りをベースに、その特徴を活かしたオリジナルの香りに仕上げるために、様々な香料を混ぜ込んで「山河本店 香煙研究所」のお線香は作られる。

世界の9種の香りがベースとなった香料の粉。
世界の9種の香りがベースとなった香料の粉。

人工的なものは一切使わない、自然物のみ。

その最大の特徴は“自然物”に重きを置いて作られることだ。現在のお線香は、防カビ剤を使用していたり、まっすぐ細い棒に固めるために増粘材(化学糊)などを混ぜて作るのが一般的だ。

また、様々な香りを出すために人工香料を使ったり、煙を少なくするための原料を入れたりなど、様々なものが混ぜ込まれている。「山河本店 香煙研究所」のお線香はそのようなものは一切使われていない。例えエッセンシャルオイルだって天然由来ではあるが、人為的に香りを濃縮して抽出したものなので使わない。あくまでも“自然にできたもの”を粉にしたものだけしか使わない。

「言い換えれば、香りがあって粉にすることができれば何でも香料になるんです。伝統産業に1から飛び込んだので香料なんて卸してくれなかった。自分たちで輸入したり、採りに行ったりしながら粉にすることから始まりました。

だから、その香料の元がどんなものでどんな形をしていて、現地でどのように使われているかを知っているのが最大の武器です。香りのハンティングをしているところが何よりの特徴。だからこそ自然物を楽しんでいるんです」と香司の橋本勝洋さん。

その作り方はまるで蕎麦を打っているよう。

工房でお線香を作っているところを見学させてもらった。作り方はいたってシンプルだ。

まずは、お香の原料となる椨粉(たぶこ)を数種類ボウルに入れる。「タブノキ」の樹皮や枝葉の粉末でこれ自体に香りはないが、水分を加えて練ることで粘りが出てお線香の土台になる。

次に、ベースとなる世界の9種の香りから、今回は古代ヨーロッパで使われていた「龍血」という赤色をした樹脂を主香料として選んで加えた。

ここから調香だ。「龍血」の香りをさらに麗しく風格のある香りに仕上げるために、数種類の香料が加えられていく。僅かな量の違いでも香り方が変わるそうで、0.1gの単位まで計っているのには驚いた。このレシピが何よりも肝心で、加えるものの種類や量で香りはもとより、煙の形までもが変わるそうだ。何度も何度も試行錯誤を繰り返し、完成するまでに数年かかることもあるという。

それらをふるいにかけて均等に混ぜ、お湯を加えてひたすらまぜて団子状にまとめていく。

材料がまとまったら、自作のプレス機に入れてところてん方式に押し出す。それを一定の長さで切って、自然に乾燥させれば完成だ。その作業はまるで蕎麦打ちか生パスタでも作っているかのようだった。一見簡単そうだが、化学糊などを入れずにまっすぐに作るのが至難の業で、自然物だけを使ってお線香を作るところはほとんどないそうだ。

お線香の煙の形でさえデザインできる技がある。

出来上がったお線香を一本取り、焚いてみる。ふわーと煙が立ち昇る。しばらくすると煙が渦を巻く。これは焚いたときに出る少し重い粒子に煙が巻き込まれることで起こるそうだ。実はこの煙の形すらも混ぜるものによってデザインしているそうだ。

しかも煙は立つのに一向にむせることはない。まさに呼吸できる煙だ。目を閉じると、おばあちゃんの家だったり、はたまた旅先の地であったり、その人の思い思いの地へとトリップさせてくれる。

最後に、ハーブなど香りのするものを和紙に包んでよって作るペーパー(ロープ)インセンスを教えていただいた(詳しくは「山河本店 香煙研究所」のインスタグラム@sanga.incenseに)。これなら自宅でも簡単に作ることができる。

外出が自粛されている今、香りによるいざないは今まで以上にかけがえないひとときを与えてくれた。

山河本店 香煙研究所はこちらです。

京都市中京区烏丸通二条下ル秋野々町528 http://sanga-incense.com/

線香(40本入り)¥2,200・税別~

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して営業日などはホームページでご確認ください。また、WEB SHOPで購入することもできます。

 

撮影・取材・文/楠井祐介