COSME DE NET

FOLLOW US

  • .&cosme
  • .&cosme
  • .&cosme

Inner Care】【COLUMN

2020.04.23

コロナ禍こそ坐禅! その最強バディ“お線香”は伝統世界にゼロから挑む香司の賜物だった…(前編)

坐禅がきっかけで目覚めた優雅な煙。

今年初めからはじめた坐禅。早いものでもう100日を過ぎた。もちろん、この不安定な状況下でも、いや、その状況下でこそ坐禅は僕にとって欠かせない。1日15分という短い時間だが、延べ時間にするとまる1日を優に超える時間を坐禅しているから驚きだ。数字にして表すと小さいものでも繰り返すと大きくなるのが実感として分かった。そんな、坐禅をする中で新しく楽しむようになったのがお香、お線香だ。今まではエッセンシャルオイルを部屋の中で香らせたりすることはよくしていたのだが、坐禅という凛とした世界観にはお香が似合うという単純な発想から試すことにした。

お線香の煙に魅せられて。京都の「山河本店 香煙研究所」へ、いざ!

エッセンシャルオイルが部屋全体を香らせるのに比べ、焚くことで香らせるお線香は煙によって香りが立ち昇る。そのため、場所や瞬間によって香り方がまるで異なってくる。そしてやはり最大の違いは煙ではないだろうか。今まであまり意識をしていなかったが、坐禅中半分ぼーっとしながら煙を眺めていると、煙は単に立ち昇るだけではなく、渦巻きを作ったり波のように漂ったり…滑らかで美しいその姿に吸い込まれていった。そんなお線香に魅せられ、今回は京都の「山河本店 香煙研究所」のお店兼工房を訪れた。

緊急事態宣言前のざわつく時期にもかかわらず、取材に応じてくれた「山河本店 香煙研究所」。お店兼工房は和式建築の落ち着いた佇まい。
緊急事態宣言前のざわつく時期にもかかわらず、取材に応じてくれた「山河本店 香煙研究所」。お店兼工房は和式建築の落ち着いた佇まい。

古代文明が創り出してきた世界の香りをお線香に。

昨年12月、長野から京都の烏丸二条に移転してきた「山河本店 香煙研究所」はいわゆる百年以上続くような老舗のお線香屋さんではない。しかしながら、香司である橋本勝洋さんの作り出すお線香は、今では珍しくケミカルなものを一切使わず、昔からの伝統的な製法を用いて自然物だけで作り出す特別な一本だ。

また、お線香と言えば、白檀に代表されるような香木や生薬を練り混ぜて作るのが一般的だが、「山河本店 香煙研究所」のお線香は、薬草、樹脂、香辛料、鉱物など、世界中のあらゆる香りのする自然物が材料となっている。

整然と並べられたオリジナルお線香の数々。日本の文化が感じられる店内のあしらいにホッとして。
整然と並べられたオリジナルお線香の数々。日本の文化が感じられる店内のあしらいにホッとして。

世界を旅して出会った香りが礎に。

「山河本店 香煙研究所」のお線香には世界を旅する中で見つけた香りとの出会いがあったという。

例えば、木からにじみ出た樹液が固まった樹脂、それが化石化された琥珀。このようなものを線香の材料にしているところはまずない。しかし、太古の昔から人々はこれらを香りとして儀式などで重宝してきた。

「旅していたときに現地の方がある香りをかがせてくれたんです。その香りが衝撃的で、その感動を伝えると『これは樹脂だよ』とその採れる場所に案内してくれました。世界中を旅する中でそんなシーンが何度かあった。そこで、1000年以上の文化・文明が発達した地域では、その地ならではの香りを持つことに気づいたんです。香りを持つとは、その地、その文化・文明が神を信仰している証でもあります。社会が成熟し文明になるには、香りという要素が大きな役割を担っているのかもしれません。それぐらい、香りを持つことは人々の生活を豊かにするものだと思うんです」(香司/橋本さん)。

商品と一緒に見られる香木や琥珀などの原料。「この材料からこの香りが…」感慨もひとしお。
商品と一緒に見られる香木や琥珀などの原料。「この材料からこの香りが…」感慨もひとしお。

香りは古代文明とともに育まれる。

「パロサント」はアンデス文明で使われた香木。マヤ・アステカ文明では「コパル」という琥珀、古代ヨーロッパでは「龍血」という樹脂が珍重された。ネイティブ・アメリカンは「ホワイトセージ」や「スウィートグラス」といった薬草を儀式で使った。中国から日本にもたらされたのは、「白檀」や「沈香(ジンコウ)」といった香木だ。エジプト文明の「ミルラ(没薬)」やキリスト教の「フランキンセンス(乳香)」などの樹脂は人類最古の香料と言われている。

 

「山河本店 香煙研究所」ではこれらを世界の香りを主原料にした9種のお線香がベースになっている。人類の歴史を支えてきた世界の由緒ある香りを手軽に楽しんでもらいたいという思いから、それらの香りを日本伝統のお線香に落とし込んだのだそうだ。その伝統的な作り方は明日の後編へ。

 

撮影・取材・文/楠井祐介