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Inner Care】【COLUMN

2020.01.03

既婚の証しのお歯黒、お金持ちの象徴金歯、そして白い歯へ。歯の美意識は時代によってこんなに違う!

なんのためにスキンケアをして、メイクをするの? 「キレイになるため!」。それなら、なんでキレイになりたいの? 「え!?」 そう思ったみなさんにおすすめの連載コラム。化粧文化研究家の山村博美さんが、キレイをあらゆる角度から紐解きます。

歯の白さが注目された1990年代。白くてきれいな歯並びがあこがれに!

みなさんは「芸能人は歯が命」というキャッチフレーズのCMを覚えていますか?

1995年に、俳優の東幹久さんと高岡早紀さんが出演して、ブームを巻き起こした歯磨き粉のCMです。“白くてきれいな歯並びが美しい”という美意識を、日本人に強烈に印象づけたのがこのCMでした。

1980年代までの日本では、歯の白さや歯並びは、多少気になっても治すほどではないと考える人が多かったと思います。アメリカでは嫌われていた八重歯も、日本ではチャームポイント。昭和のアイドルには、八重歯の女性がけっこういました。

日本が欧米と比べて歯に対する意識が低かった理由のひとつに、笑う時に口元を手で隠すなど、感情を表に出さないようにしてきた日本人の美意識が影響していると考えられます。そしてもうひとつは、長く続いたお歯黒の習慣です。

今は白い歯、昔はお歯黒。幕末に来日した外国人も黒い歯に驚いた!

「江戸姿八契(部分)」 鏡を見ながらお歯黒を筆でつけている様子 江戸時代後期 香蝶楼国貞画 国立国会図書館所蔵
「江戸姿八契(部分)」 鏡を見ながらお歯黒を筆でつけている様子 江戸時代後期 香蝶楼国貞画 国立国会図書館所蔵

日本では、貴族の女性はすでに平安時代にお歯黒をしていました。そして江戸時代になると、お歯黒は女性の未既婚の区別をあらわす決まり事になったのです。

当時の適齢期は数えの15~18歳ぐらい。未婚の間は白い歯ですが、結婚後は毎日のようにお歯黒をするのが女性の身だしなみ。既婚女性は、黒く艶やかな歯が美しいという美意識でした。

しかしこのお歯黒、来日した欧米人には、ひどく野蛮な風習に映りました。なぜなら欧米では昔から白い歯が美しいと考えられていて、黒く染めるなんてもってのほかだったのです。

そのため明治時代になると、西洋文化を積極的に取り入れようとする政府の方針を受けて、お歯黒は徐々に衰退していきました。

お歯黒のあとは、アクセサリーをつける感覚で、なんと金歯が大流行。

そして、お歯黒から白い歯への移行期に割って入ったのが金歯でした。明治時代後半から大正時代にかけて、男女を問わず、成金やセレブの間で金歯を入れるのが流行したのです。

金を使ったメガネや指輪、帯留めなどと同じように、口元でキラリと光る金歯は豊かさの印! 中にはわざわざ健康な歯を抜いて、金歯の入れ歯をつくった女性もいたとか。

お金がない庶民のためには、値段が安いアルミ製で、取りはずしができる”飾り金歯”もありました。

まさに、歯の美意識が固まっていない時代ならでのエピソードといえますね。

ライオン歯磨きの広告 『婦人画報』1926年4月号
ライオン歯磨きの広告 『婦人画報』1926年4月号

昭和になるとようやく「美しい歯は美貌の鍵! 白く艶やかに輝く歯の愛らしさは御婦人方の無上の宝です」という、写真のような広告がみられるようになったのでした。

口元を隠す笑いは過去のもの。白い歯と笑顔があなたを輝かせます!

白い歯をアピールした歯磨き粉のCMが話題になったのは1995年ですが、これを機に、歯を白くする効果を強調した新製品が次々と発売されます。

同じ1990年代には、歯科技術の進歩により、歯の表面にラミネートべニアを被せて白くしたり、形をきれいに整える治療が広まりました。

今では歯列矯正や歯のホワイトニングをする人も増え、欧米より遅れていた歯の美意識はずいぶん様変わりしています。

歯も顔の一部。日頃からオーラルケアに気を配り、口元に自信が持てれば笑顔が増えます。今は口もと美人になるためのスマイルトレーニングもある時代!

喜怒哀楽を人前で見せないのを良しとする美意識はもう過去のものになりました。笑顔は自分の気分を上げるだけでなく、周囲の人を明るくします。

2020年、新しい年は白い歯と笑顔でスタートしましょう!

 

文・写真提供/山村博美