古(いにしえ)から言い継がれてきたことわざならしょうがない!?
低いダンゴっ鼻でしょ、唇が厚くてタラコっぽいでしょ、ソバカスやらシミが多いでしょ、年齢とともにキメが粗くなってきたでしょ、左右で眉の形が違うでしょ、目尻の小ジワが深くなってきたでしょ、まぶたのくすみが晴れないでしょ。何より最悪なのは、これらの難を隠してくれる白い肌とは無縁の、地黒ってこと!いったい、私はどうすればいいんでしょ!? と、「肌の白いは七難隠す」を聞いたり目にしたりするたび、ふん、どうせ私の肌は黒いですよ!と開き直るしかなくて……。でもまぁ、古からのことわざと思えば、仕方ないかと思っていた。だって、広辞苑にもことわざ辞典にも載っているんだもの。ところが! 違っていたのだ。
どうやら、江戸時代の風潮をズバリ表した言葉でした。
化粧品の歴史にも言及したマーケティング関係の本に、「色の白いは七難かくす 草々美顔水お用ひあれ」という『美顔水』という化粧品の明治44年の宣伝コピーと載っていた。
でも、辞書に載っているんだからと、さらに調べると、出典は式亭三馬の『浮世風呂』と判明。江戸時代の滑稽本だったとは。図書館でもっと調べたいと思ったが、新型コロナウイルスのせいで緊急事態宣言となり、休館で断念。ビューティサイエンティストの岡部美代治さんに、七難とは何ぞや?と疑問を投げかけた。
「そもそも江戸時代の庶民は日に焼けていたから、色の白い人は高貴な人のイメージがあって憧れだったでしょうね。つまり、庶民とは違う美しさを持っている人ということで、言ってしまえば肌が白いっていうのは美の最大の条件。だから、色が白ければ肌トラブルも含めた醜いところを隠してくれるってこと」とおっしゃる。現代と違い、優秀な日焼け止めは存在していないから、勤勉な庶民は日焼けしていたのだ。
続けて「この色白信仰というか色白美人説は、日本だけではなく、中国や韓国などアジア共通」と岡部さん。なるほど、美白ケアが盛んな地域に言えることで、白色人種の多い地域では言われないことなのだ。
で、岡部さん、七難を具体的にあげると? 「七って、たくさんあるって意味で、仏教用語に由来している。当時は具体的に七難はこれとこれっって決まっていなかったんじゃないかと思います。七難ってゴロがいい」。確かに、六難、八難ではゴロがよろしくないし、言いにくい。
現代は七難のほとんどは隠せちゃう。
現在、資生堂の『プリオール』は大人の七難として「凹凸、影、色、乾く、下がる、見えにくい、おっくう」をリストアップ。肌悩み以外に視覚やマインドからくる悩みも入っているのが特徴といえる。
対抗するわけではないが、岡部さんが「肌荒れ、ニキビ、シミ、シワ、たるみ、くすみ、顔立ち」と岡部流七難をあげてくれた。顔立ち以外は、日々のスキンケアをきちんと行っていればカバーできる。そう、江戸時代と違い現代に生きる私たちにはコスメという心強い味方があって、七難を隠すのもそう難しくないはずだ。
撮影・取材・文/N・ピギー