美のプロだからこそ知る、きれいの裏側をのぞく好評連載。今回ご登場いただくのはヘア&メイクアップアーティストの岡田いずみさん。
ナチュラルでその人の肌質に溶け込みながらも美しいオーラを放つ“絶品肌”は、まさに岡田さんの真骨頂。自身のことを〈肌フェチ〉と呼び、〈肌師〉として多くの女性たちの輝くような笑顔を引き出しています。
そんないずみさんが行き着いたナチュラルメイクも、実は紆余曲折あってのものだとか。前編では忘れられないヘアメイク現場でのエピソードから、秘伝の肌づくりを教えてもらいます!
夢見がちな“Olive少女”でした。
――なぜ、美容の道を選んだのですか?
「私の実家は、実は化粧品店なんです。子どもの頃から化粧品はとても身近な存在でしたし、小学生の頃から愛読書は資生堂が発行している情報誌『花椿』だったほど。『花椿』に載っている海外の詩を読んだり、そこに描かれるハイモードな世界に憧れを抱きながら絵を描くのが大好きという、まさに夢見がちな“Olive少女”でした。
高校では演劇部の照明やメーキャップ、舞台監督のお手伝いをしたことでワンチームのものづくりの楽しさに開眼しました。自分のアイディアやスキルを活かして“メーキャップする”“表現する”ことのおもしろさを味わうことができて、高校卒業後に美容学校へ進学したのも、こうしてメイクの道へ進んだのもごく自然ななりゆきでした」
年にたった3回しか夫と食事ができなかったことも。
――社会に出てからは?
「メーカーに在籍していた頃はトップファッションの世界で発信されるものを、一般の女性の幸せへと落とし込んでいくというこの仕事に、とても魅力ややりがいを感じていました。
しかし一方で、忙しすぎて体調をくずしたことも。結婚した最初の年、朝昼晩すべて合わせても、年にたった3回しか夫と食事ができなかったんです。『あ、このままでは仕事も自分自身もダメになってしまう』とフリーランスとして活動していくことを決めました」
昔から“肌フェチ”なんです。
――独立後は自分らしいメイクに磨きをかけていく?
「はい。私、とにかく昔から“肌フェチ”なんですね。肌には人柄がにじみ出るというか、その人らしさが透けて見える気がするんです。私がメイクする肌で、その方のことを語ることができたらうれしいといつも思っています。
フランソワ・オゾン監督の『まぼろし』という、中年女性の内面にスポットを当てたフランスの映画があるんですが、その中で主人公の女性を演じるシャーロット・ランプリングがじっと鏡を見つめてスキンケアをするシーンがあります。『ああ、自分の手でがんばって育てているから、あの佇まいのある肌ができるんだなあ』と感じます。人それぞれのよさ、美しさを表現し、伝えていきたくて」
その人のことを知り、その人らしさをつかむことが大事。
――肌映えメイクへのこだわり。撮影現場ではどのように?
「まずはその人の肌を見極め、今必要なスキンケアをしながら、その方の好みを探っていきます。たとえば、『今日どんな気分ですか?』『どんなメイクが好きですか?』と聞くとするじゃないですか、するとみなさん、『ナチュラルメイクが好き』と答えるんです。でも、ナチュラルという言葉は実に奥深く、ひとりひとりがイメージするナチュラルはそれぞれ違います。血色感があふれるヘルシーなメイクやメリハリの効いたヌードカラーメイク、うるおいが満ちるみずみずしい肌感の色っぽいメイクなどさまざま。だから、その方のことを知り、その人らしさをつかむことを、大事にしています。
その大切さに気づかされたのは、実はあるアーティストのメイクを担当させてもらったことがきっかけなんです」
リップは私のバストトップと一緒の色にしてね!?
――そのアーティストとは? 一体どんなきっかけが?
「私がまだ30代後半だった頃、憧れていた海外アーティストのヘア&メイクを担当させていただく機会がありました。コンコンと扉をノックしてメイクルームに入ったら、なんと、彼女がトップレスで座っていて……! そして私を見て、『あなたに会うのは今日が初めてだから、私の肌を知ってほしい』と。
最初はそこまでしなくてもデコルテまで見えたら充分では? なんて思っていたら、彼女が知ってほしいと、さらにこう続けたんです。『リップは私のバストトップと一緒の色にしてね』と。一瞬意図がわからずプチパニック状態に」
“究極のナチュラルをつくる”というとても貴重な経験でした。
――リップはバストトップと同じ色!? 衝撃のオーダーですね。
「ファンデーションもリップも、当然手持ちのものではまったく同じ色や質感のものがあるわけがありません。持っている色をいくつもブレンドし、重ねて塗り分けて、なんとか彼女の色をつくりあげて……。“究極のナチュラルをつくる”というとても貴重な経験でしたね。
と同時に、ナチュラルの奥深さを思い知るというか、自分がしてきたナチュラルメイクが完全に私の中で崩壊してしまいました。
今まではイエベ(イエローベース)、ブルベ(ブルーベース)に大別したり、トレンドカラーをONすることが色選びでしたが、“わたしの色”を大切に、ジャストフィットする色選びを知って目が覚めるようでした」
『わたしの色にして』という自己愛から生まれる、究極のナチュラルの在り方。
――ナチュラルって、ある意味恐ろしい……。
「はい。それまでは“ナチュラルな肌=○○がない肌”だと思ってメイクしていたんですよね。たとえば、シミがない、シワがない、くすみがない、毛穴がない。だからクリーンで健やかな肌が生まれるんだと。でも、そうではなかった。
ヘルシーなツヤがあり、その人自身が持つ肌の色や個性があり、そこに人を惹きつける色気や吸引力がある。『ない』じゃなくて『ある』んだと。『わたしの色にして』という究極の自己愛から生まれる、究極のナチュラルの在り方。いい機会に恵まれ、体感できたことに感謝しています」
ファンデとコンシーラーはぞれぞれ必ず2色を使い分けます。
――そこからオーラのある肌づくりがスタートしたんですね。秘訣をぜひ!
「まず、ファンデーションはクレ・ド・ポー ボーテのタンフリュイド エクラとRMKのリキッドファンデーションなど、コンシーラーはルナソルやクレ・ド・ポー ボーテのスティックコンシーラーなど、それぞれ必ず2色を使い分けます。1色だとどうしても均一な肌になってしまうので、もともとの肌質も消えてしまいます。
ツヤ感や濃淡の異なるものを顔の中央部とフェイスラインで塗り分けて立体感をプラス。特に今どきの顔に仕上げるには、ファンデーションは必要最低限をごくごく薄く塗るのが絶対です。
そしてトラブルのある部分はコンシーラーで健やかに見えるようカバーします。ニキビ、シミの上に点でのせるものと、ほうれい線やくすみを飛ばすものを2種使い分けます」
“ふっくらオーラ肌”は、リキッドのファンデとチークを1:1で混ぜるのがコツ
――肌づくりの仕上げは?
「仕上げは“ふっくら肌オーラ”。どんな人もどんな肌でも、元気で幸せそうに見えることがオーラへとつながるもの。これ、実はすごく簡単なんですよ。クレ・ド・ポー ボーテのリキッドファンデとNARSのリキッドチークを1:1で手のひらでまぜたものを、目の下から小鼻にかけての逆三角形ゾーンにトントンのせればできあがり。
いずみさん愛用のNARSのチークにクレ・ド・ポー ボーテのファンデをミックス。ふわっと血色感を感じさせる肌づくりの秘訣だそう。
すべてをつくり込んで隠してしまうのはもったいない! 肌をうるおして底上げし、自分らしさをメインにするポジティブなメイクでハッピーなオーラのある顔を目指しましょう!」
いずみさん自身が醸し出すハッピーオーラにあやかるべく、私も今日からこのメイク法をトライしてみたいと思います! ぜひ、みなさんも参考にしてみくださいね。
後編ではおすすめのコスメや気になる2020年の顔についてたっぷりとお聞きします。どうぞお楽しみに。
撮影/国府田利光 取材・文/杉浦凛子