美のプロだからこそ知る、きれいの裏側をのぞく好評連載。今回ご登場いただくのは人気ヘアメイクアップアーティストの赤松絵利さん。
赤松さんと言えば、ピュアなナチュラルメイクが人気で、今をときめく多くの女優たちから絶大な支持を得ています。そのパワフルかつ朗らかな人柄も魅力で、赤松さんがいる空間はいつもハッピーオーラに包まれているかのよう。
前編では、これまでの撮影現場での忘れられないエピソードや、神技メイク術などたっぷりお聞きします。
美容を志したきっかけは?
「小学校の卒業文集に“将来は美容の道に”と書いたほど、この世界には昔から強い憧れがあったんです。専門学校卒業後に入社したのは、東京・原宿にある、とあるヘアサロン。理容師と美容師がともに働く、すごく個性的なお店でした。そこにいる時に、ある雑誌の企画で、美容師がヘアメイクアップアーティストに作品づくりを学ぶ機会があり、私がたまたまそこに美容師として参加させてもらったんです。その先生役が、後に師事することになったヘアメイクアップアーティストでヘアサロン『ESPER』を主宰する宮森隆行氏。
当時、絶大な人気を誇った雑誌『Olive』のヘアメイクを手がけていた宮森は、まさに私の憧れの存在でした。彼の仕事に圧倒され、それがきっかけで宮森のアシスタントに志願し『ESPER』に入社。修行期間を経て、1999年よりヘアメイクアップアーティストとして活動を開始しました」
独立後、初の仕事が某大女優の雑誌表紙の現場だったとか?
「そうなんです。宮森がずっと担当していた、ある有名女優さんが『あなたが独立したら、一番に仕事をお願いするね』とずっと言ってくださっていて。独立後、本当にすぐに私を指名してくれました。それが、某テレビ誌の表紙のヘアメイク。新人ヘアメイクなのに、最初の仕事から表紙! そんなこと普通ないですよ。ありがたいことですよね。その女優さんのお人柄と懐の深さにも感動しましたし、私のことを周囲にプッシュしてくれていた宮森にも本当に感謝しました。周りの方にとても恵まれていると思います」
選りすぐりのアイテムがぎっしり詰まった、赤松さんのメイクボックス。
順調すぎる滑り出し! 今までで一番の現場でのハプニングは?
「確か独立した翌年、とんでもない事故が起こりました。あるヘアスタイリング剤のCM撮影だったんですが、気鋭の若手女優さんのヘアメイクを仕込んでいた時のこと。顔まわりの髪をヘアアイロンで巻いていた時、誰かに呼ばれた気がしたのか、女優さんが突如振り返ってしまい、アイロンが頰にジュッ!!!! もう顔面蒼白。大慌てで冷やしましたが、現場は大騒ぎ。できてしまった火傷跡はメイクでどうにかカバーし、なんとか撮影することができたんですが、終了後、女優さんと一緒に病院に駆け込みました。
その際、クライアントの方が女優さんの事務所との間に入ってくださり、『赤松さんはこの商品の撮影に必要な方です!』と言い切ってくださったのには感激しました。事故とはいえ、あの時は生きた心地がしなかったです」
それはかなりの大事件……。ほかにもピンチだったことはありますか?
「ある女性ミュージシャンの方のPV撮影で、ヘアメイクを担当した時のことです。撮影当日、彼女が目をパンパンに腫らして現れました。腫れと赤みで、もう別人みたい。聞けば、前日に恋人と別れてしまったそうで、泣きはらしたとか。精神的にもかなり不安定になっていて安定剤を飲んでいたほどで。とにかくこの顔では撮影は到底無理なので、元の顔に戻すために、ありとあらゆるケアをしました」
撮影当日に、失恋の痛手の泣きはらした顔‥‥‥どんなケアを?
「とにかくまずは冷やすこと。その後は、温めて強張っているリンパを流すんです。目まわりはわりと強めに指圧。これを繰り返して、巡りを良くし、なんとか腫れと赤みを取ることができました。でも、意外と女優さんたちって顔が腫れてしまうことがあるんですよ」
女優さんの顔の腫れ? どんなきっかけで腫れてしまうのですか?
「やはりハードな仕事ですから人知れず奥歯をくいしばってしまう場面が多いようです。その時の刺激が積み重なり、頰の腫れにつながったり。なかにはアゴが腫れてしまった方もいました。そういう時はリンパが流れていない状態なので、とにかく温めたりマッサージして、溜まっている老廃物を流すようにしましたね。さらに、現場での肌トラブルでよくあるのが吹き出物。私個人としては、白ニキビは断然つぶす派です!」
現場でニキビをつぶすんですか!?
「そう、白ニキビに限りますけど。赤ニキビは炎症しているのでつぶすのはNGですよ。でも白ニキビはつぶして芯を出してしまったほうが、治りも早いと思います。つぶして凹凸さえなくせば、色ムラはメイクでカバーできますから。
白ニキビは、ニキビ成分が体に吸収されて治っていくのを待つよりも、つぶした傷が修復していく自浄作用のほうが断然早いんです。でも、つぶすのはテクニックが必要ですから、やみくもにつぶすのはやめてくださいね。私はニキビ専用のキットを持っていて、それでサクッと処置してしまいますが、皮膚科などでもリーズナブルに処置してくれるのでおすすめですよ」
さすがプロの現場! あらゆるトラブルも赤松さんの機転とテクニックで華麗に乗り切ってらっしゃいます。肌トラブルへの対処法は、私たち一般女性にも役立ちそうですね。
後編では、撮影現場で必須のこだわりの仕事道具や、赤松さんが自腹で買いたい溺愛メイクアイテムについて教えてもらいます。お楽しみに!
撮影/国府田利光 取材・文/井上幸子