美のプロだからこそ知る、きれいの裏側を覗く好評連載。今回ご登場いただくのは、日本の美容シーンを牽引する、トップヘア&メイクアップアーティストの黒田啓蔵さん。名だたる人気女優のヘア&メイクを手がける“女優メイク”の巨匠としても知られ、多くの女優、モデル、アーティストからのラブコールが後を絶ちません。そんな黒田さんのメイクテクニックには、大人の女性のセルフメイクにも役立つヒントが満載。現場での舞台裏エピソードとともに、大人を輝かせるメイク術を伺います。
ヘア&メイクアップアーティストになられたきっかけは?
「実家が美容室だったので、自然と美容師を志し、専門学校を卒業後、都内のサロンで美容師として10年ほどサロンワークをしていました。そんななか、とあるヘア&メイクのコンテストに出場する機会あったんです。そこで、なんと優勝から始まって、すべての賞を総なめにしてしまって。ビックリでしょう?
また同じ頃、ヘア&メイクの方々のショーに足を運ぶこともあり、ヘアスタイルだけでなく、ヘアとメイクのトータルバランスについて考えるタイミングが多かったんです」
絶大な人気だった『CanCam』や『JJ』などの女性誌を担当されるようになったのも、その頃?
「はい。最初は『Seventeen』や『non-no』などのティーン誌から始まり、次第に『CanCam』『JJ』『ViVi』といった、いわゆる赤文字系雑誌も担当するように。
広告や雑誌のフィールドなど、美容師とは全く違う作品を作り上げていく世界に魅力を感じ、もっと突き詰めたいと思ったんですね。それで一念発起し、サロンを退職。マネージメント事務所に所属し、ヘア&メイクアップアーティストとして人生を歩んでいくことに決めました」
メイク現場でのハプニングや危機的状況もあったのでは?
「いろいろなことがありすぎて、大抵のことじゃ驚きませんよ(笑)。ピンチをピンチと思っていないかも。
例えば、アーティストの方なら、三日三晩寝ずに、PV(プロモーションビデオ)撮影することだってあるんですよね。当然、お肌にとっても過酷な状況。でも、いかにコンディションを良く保ち、崩れないメイクをするかが大事ですから、そこは冷静に判断しながら、場面場面に応じて対処しています。やはり土台となる、スキンケアがいちばん大事ですよね」
三日三晩寝ずの現場……壮絶。肌トラブルを抱えた女優さんもいるのでは?
「やはり若い方はお肌のトラブルも多いんですが、それをきれいに見せるのが僕らの仕事、驚いてなんていられませんよね。隠すための厚塗りはご法度。
欠点はカバーしつつも、素肌感は消さないのが大事です。気象条件や体調によってもお肌の状態は微妙に変わってくるので、スキンケアは常に3タイプ以上持っていきます」
ドラマの現場など、長時間に渡る撮影でも“崩れない”メイクは?
「先ほどもお話ししたように、土台となるスキンケアが最も重要。ドラマやCM撮影など、長時間の現場では特に念入りにメイク前に行いますよ。
まず、マッサージ。美顔器も状況によって使いますが、基本はハンドマッサージ。年齢が高くなればなるほど、このプロセスは大事にしています。マッサージクリームをなじませ、滞った血流を流したら、ホットタオルを顔にのせて少し蒸すんです。それからクリームを拭き取り、肌質に合った化粧水で整える。どんな季節でも、お顔に温かいものを一瞬のせると、気持ちがホッとするんですよね。お風呂上がりの感覚になるから、どんなに疲れていても、それだけで気分が変わるんです。このひと手間を加えるだけで、撮影中もお肌の健やかさが全然違いますし、断然くずれにくくなるんです」
女優さんだけでなく、一般女性にも活用できそうなテクニックですね!
「ぜひやってみてください。たった2分くらいの簡単なものですが、むくみも取れ、顔がひとまわり小さくなりますよ。耳下腺から首筋までを、人差し指で押さえたら、フェイスラインを下から上に向かって引き上げ、耳裏から再び首筋にかけて溜まったリンパを押し流すんです。イタ気持ちいいぐらいに、強めに押して大丈夫。
目まわりや頬への刺激はお肌の負担になるので、避けてくださいね。10代、20代はなにもケアしなくても十分ですが、30代以降はこのひと手間が重要。とても忙しい世代だと思いますが、そこは心がけ次第です。メイクがただコスメをのせるだけの行為になってしまってはもったいない。この2分間のマッサージ、心の余裕が、仕上がりを格段に引き上げるんです」
どんなマッサージクリームがおすすめですか?
「メナード エンベリエ リフレッシュマッサージ(160g ¥20,000・税別/メナード)が好きですね。高価格なので、かなり上の世代向けの印象があると思うんですが、意外と幅広くどの年代でもおすすめ。肌の水分量が整い、フレッシュな質感になりますよ。
大人世代はメイクして時間が経つと、お肌がシワシワしてきがちですけど、これでマッサージしておくと、それがあまりないんです」
“女優メイク”をつくるうえで、心がけていることは?
「内面のパワーが現れるような、お肌の質感づくりですね。昔は、しっかり厚くカバーし、お化粧感を全面に出したメイクが多かったんですが、今はそれぞれの女性像や、持っている個性を引き出すようなメイクが求められていると思う。人となりが想像できる、素肌感が大事なんですね。これは、女優さんだけでなく、一般女性にも言えること。お肌は軽やかに、キレイに見えるのがいちばんいいです。ヌケ感があるのが今っぽい。
大人世代は、どうしてもファンデーションを厚塗りしがちですが、逆に老けて見えてしまうし、崩れてしまった時に手直しも大変。下地で肌色調整したら、のせるファンデーションは少量でOK。ファンデをのせたら、最後にしっかりハンドプレス。ファンデがお肌に密着して、より崩れにくくなります。
今は、スキンケアもコスメもすごく進化し、どれも高品質。それをさらに美しく見せるのは、各工程でのちょっとしたひと手間なんです。お肌がキレイなら、正直あとは省いてしまってもいいくらい。それくらい、お肌がキレイなことって大事だと思います」
朗らかでありながら極めて冷静。黒田さんが多くの女優たちから支持される理由がわかります。後半では、女優との交流を通し黒田さん自身が学んだことや、不動のメンタルの保ちかた、お気に入りコスメについてお聞きします!
撮影/cheki(WILL CREATIVE) 取材・文/井上幸子