5年ほど前、ふと古民家に住みたくなった。東京に来てから10年ほど経ったときぐらいだろうか。生まれも育ちも大阪市内のマンション暮らし。東京に来てからもぼろアパートに住んだことはあるものの、一軒家に住みたいとはこれまで一度も思ったことがなかった。マンションは頑丈で自然災害などにも強く、防犯にもすぐれ、きれいで快適だからだ。適度な広さは掃除もしやすく、心地よさを求めるなら断然マンション! タワーマンションのきらびやかさは少し苦手なので、優雅な低層階マンションで暮らすのが理想だとずっと思っていた。それが…
初めての一軒家で変わった、住むから暮らすへ。
30歳を超えて結婚し、家が少し手狭になったので引っ越しをした。そんなときに出合った家を一目見た時に僕の心は奪われた。東京でありながらまるで牧場のような、深い緑色にペイントされた木で作られた柵と扉。その周りを樹齢100年を超えているであろう大木や様々な木々や草花が彩っていた。ギ~ッと扉を押して入ると庭があり、奥には少し大きめの一軒家。それが3世帯に分かれているテラスハウスなる物件だった。東京23区内でありながら、なにかの物語の世界にでも入り込んだような気分になって、即決でその家に住むことに決めた。
初めての一軒家暮らし、最初は戸惑うことの連続だった。まず家に階段があることが初めてだった。例えば、2階でハサミが必要になっても、家にあるのは1階の棚に置いてあるひとつのみ。それを取りに行くのがなんとも億劫と感じた。掃除にしろ、掃除機の上げ下げが面倒だし、心奪われて住んだものの、住み立てはまだ「やっぱりマンションの方が快適!」と思っていた。
でもそんな初めての階段生活にも慣れてくると、ふと自分の中に変化があることに気づいた。今までは休み日の予定がなくて一日家にいると、なんだか体がだるくなったり、風邪っぽくなったりすることが多かった。そして「あー無駄に過ごしてしまった」と感じていたのが、ふと感じなくなったのだ。それは階段の上り下りや庭掃除をすることで体をより動かすようになったからだろう。1階と2階からと違う角度から景色をみられるようになったからだろう。風で揺れる木々のざわめきや、小鳥たちのさえずりが聞こえるようになったからだろう。いろんな要因があると思われるが、とりあえず一日中家にいても楽しんで過ごせるようになった。今までは“住む”というイメージしかなかった場所が、この家に引っ越ししてきて“暮らす”というイメージに変わっていった。
自然を感じ、そこに根を下ろして ありのままを感じていたい
そうなると面白いほどに自分の中に変化が起きていった。ファッションがどんどんシンプルになっていく。インテリアや食器類も、量産品からアンティークや作家物などに少しずつ変えていくようになった。その場所に根差しているかのような、ゆったりとした時間が心地よく感じるようになっていった。そうしてだんだんと古民家に住んでみたいと思うようになり、今、祖父母が住んでいた築80年の大阪長屋に住んでいる。
古民家に住むうえでなるべく大切にしていることが、ありのままを楽しむことだ。
今年の夏は暑かった。もちろん危険を感じた時にリビングのクーラーはつけたが、寝室にはクーラーをつけていない。寝苦しい夜を少しでも快適に過ごそうと見つけたのが、この「枕用フレグランス ぴろま」(20ml ¥1,400・税別/市田商店)だ。ローズやラベンダーなどの香りが何種類かあるが、僕は京都産ひのきの香りを愛用している。
寝る前に枕にシュッシュと吹きかけるだけで、すっきりとした香りが鼻から脳にいきわたり、頭がすーっと落ち着いてくる。一瞬にして森の中に入ったような心地よさに包まれ、気持ちよく眠りに落ちることができる。もっともっと自然に浸りたいときは、遠くで波の音や夜の森の音などの音楽を流す。すると本当に自然の中で寝ているような気分になれる。頭の中をだますのなんて簡単だ。これぞまさに脳内森林浴! 今は、都会の古民家暮らしだが、いつかは自然が豊かななかで暮らしてみたいと思っている。
文・写真/楠井祐介