なんのためにスキンケアをして、メイクをするの? 「キレイになるため!」。それなら、なんでキレイになりたいの? 「え!?」 そう思ったみなさんにおすすめの連載コラム。化粧文化研究家の山村博美さんが、キレイをあらゆる角度から紐解きます。
家庭用シャンプー台が登場したのは1980年代!
夏真っ盛りのこの時季は、汗ばんだ髪の匂いや、頭皮の汚れが気になりますね。今はシャワーで髪だけ洗うこともできますし、メントール入りのさわやかなシャンプーや、頭皮用クレンジングなど、夏を乗り切るヘアケア商品も充実しています。
でも、髪をいつでも洗える環境が整ったのは、洗面洗髪化粧台が登場した1980年代になってから。意外と最近!? それ以前の女性たちがどうやって髪をケアしていたのかは、ほとんど知られていませんよね。
そこで今回は、日本の歴史上、女性の髪が最も長かった平安時代にさかのぼり、姫君たちのヘアケアについてご紹介しましょう!
美人の条件は、2m強のロン毛! しかもエクステまであった平安時代。
約1000年前、平安時代の宮廷文学に登場する姫君や侍女たちは、流れるような長い髪をしています。そう、かなりのロン毛。十二単(じゅうにひとえ)のすそまで届く豊かな黒髪が、当時の美人の条件でした。
というのも現代と違って、深窓の姫君は御簾(みす)や扇で顔を隠し、赤の他人の男性には容姿を見せないのがマナー! たとえ求婚者でも、姫のガードが固ければ顔は想像するしかないわけで、かわりに美しさのシンボルになったのが丈なす黒髪だったのです。
その長さは7、8尺あったとも。1尺は約30㎝なので軽く2メートル超え! あり得ないと思うでしょうが、実は平安時代からエクステに相当するつけ毛があったので、それをガッツリつけていたなら、あながちウソとは言えませんね。貴公子たちは、御簾のすきまから、ちらりと見える髪の美しさに萌えたのでした~♡
今は毎日、平安時代は年に数回!? ここまで違う洗髪回数。
そんな姫君たちが洗髪するのは年に数回。シャンプーなんてあるわけもなく、代わりは米のとぎ汁。侍女たちが姫君の両側に並び、長い髪を櫛ですきながら、お湯で何度も洗います。洗い終わってからがまた大変! 部屋に風を通し、敷物を敷いた棚の上に髪を広げ、火桶(ひおけ)の熱で髪をあぶったり、水分をふき取ったりして乾かすのです。
だから、洗髪は朝から日暮れまで一日がかりの大仕事。夏ならともかく、冬場にこのコースでは肺炎にもなりかねません。
髪が女性の美しさの象徴だったにもかかわらず、洗髪回数が年に数回というワケには、こんな裏事情があったのでした。
今は、毎日か2日に一度髪を洗う女性が多数派ですが、それができるのは、水道や給湯器、シャワーが完備され、ドライヤーが使える現代社会の恩恵があってこそ。文明の利器に感謝です!
香りでごまかす? いえいえ、髪から漂う香りがメンズを引き付けるワザ
シャンプーの回数では現代と大きな差がある平安時代の姫君たちですが、共通点もありました。それは、髪に香りをつけること。
何か月も洗わない髪の匂いを想像してみてください…たぶんツンとした匂いが…ということで、悪臭を香りでごまかしたとも言えますが、現代のヘアミストやヘアフレグランスのように、調合した香(こう)をたいて髪に香りを移したり、香り入りオイルでツヤ髪にするのが彼女たちのキレイの流儀! 顔を見せない分、姫君たちは髪だけでなく香りも駆使して、自らの美しさやセンスの良さをアピールしたのでした。
見せたいのは髪か顔か。時代が変われば、それすらも違います。でも、ひとつ言えるのは「キレイでいたい」という思いは、1000年以上前からずっと変わっていないということ。どれだけ不便な環境でも、女性はおしゃれをやめることはないのです。その遺伝子は現代の姫君たち…そう、みなさんにも確実に受け継がれているのです。
文/山村博美