「シリコン配合シャンプーはよくない」と言い出したのは、知識と技術不足の美容師らしい。
10年くらい前、まことしやかに言われていたのが「シリコン配合のシャンプーは髪によくない」説。あなたも耳にしたことがあるだろう。その出所は、ある美容師が「シリコン配合のシャンプーを使っているとパーマのかかりやカラーリングの色の出具合が悪くなる」と客に言ったことだったとか。それが広まり、シリコン配合のシャンプーを使っていると、頭皮の毛穴が詰まり髪にも悪影響があると問題視した人が続出した。
結果、シリコン配合のシャンプーの売れ行きは鈍り、ノンシリコン・シャンプーというカテゴリーが確立したほど。果たして、シリコンは本当に毛穴を詰まらせ髪に悪影響を及ぼすのだろうか。ビューティサイエンティストの岡部美代治氏に聞いた。
アルビオン在籍中からさまざまな女性誌や美容誌で、科学的な知識に基づく的確でわかりやすいアドバイスが話題に。美容に携わる編集者やライターの厚い信頼を得て、取材に講演に人気。美容情報を発信する「ビューティサイエンスの庭」を運営。
シリコンは安全性の高い人工合成オイルで、人工臓器や調理器具にも使われるほど。
「シリコンは正しくはシリコーンオイルと言います。人間が発明した人工合成オイルで、ケイ素という地球の地殻でいちばん多い、土にも含まれている物質から作られたもの。化学的に安定してしいて、酸化しにくい、安定性の高い安心できる物質なんです」と岡部氏。
シリコンは安全な物質だからこそ、医療の分野では人工臓器に用いられているし、身近なところでは調理器具や哺乳瓶の乳首にも使われている。そして、安全性に厳しい日本の化粧品業界でもけっこう昔から使われている。1980年代半ばにブームとなった枝毛コートは、シリコンの特長が活かされた製品。
「シリコンには、天然オイルよりもよく水をはじくという特長があります。つまり、水に強く落ちにくい物質。だから、汗・水に負けないファンデーションやメイク下地、スキンケアにも使われているし、ヘアケア製品ではツヤ出しやなめらかさを高める目的で使われたり」と岡部氏は続けた。さらには
「シリコンが髪や頭皮に悪影響を与えるっていうのは、いいがかりと言っていいでしょう」とおっしゃる。
つまり、腕がいまひとつの美容師がいいわけがましく、シリコンにいわれなき濡れ衣を着せたらしいのが、シリコン悪者説の発端と思われる。ま、そのおかげでノンシリコン・シャンプーの質が向上し、今ではなめらかに洗い上がるものが増えたのだが。
あなたも、知らず知らずのうち、シリコンの恩恵を受けているはず。
さすがに、最近はシリコン悪者説を唱える人は見当たらない。が、髪のボリュームがおさまらないと嘆きつつ、今もノンシリコン・シャンプーを使い続ける人が少なからずいる。繰り返します。シリコンは安全安心な物質。配合されることによって、髪のなめらかさは増し、ボリュームは適度に抑えられる。汗や皮脂に強いファンデーションにも配合されているから、知らずに恩恵を受けているだろう。
もう、「シリコンは毛穴を詰まらせたり、髪に悪影響を及ぼす」なんて言うのはもちろん、信じるのをやめないと。
取材・文/N・ピギー